チーズの原料、ミルクの話 その2

チーズの原料、ミルクの話 その2

チーズの原料であるミルク。
前回は山羊、羊、牛によるミルクの違い、そして一言に牛乳といっても、チーズを作るために様々な品種の牛が育てられていることをお話しました。

今回は私たちにとって最も親しみ深い牛乳に焦点を当て、ミルクについての知識を更に深めていきましょう。
皆さんは牛乳について、どれくらい良くご存知でしょうか?
カルシウムが豊富?飲むとお腹がゴロゴロする?
身近なものだからこそ良く知っておきたい、牛乳の成分についてご紹介していきます。

牛乳の成分① 水分

動物が生産するすべての乳には、炭水化物、タンパク質、脂肪、ミネラル、ビタミンが含まれていますが、実は牛乳の主成分は水分です。
ちなみに牛乳に含まれる水分は人の乳と同じ89%と言われています。
がっかりされたかも知れませんが、食品に含まれる水分量は案外大きなもので、小松菜で94%、人参で89%と、一般的に栄養価が高いと言われている食物でもこのくらいの水分量があります。
また、牛乳に含まれるそれ以外の固形分を搾り出すには水分が不可欠。更に言えば、飲み物として気軽に取り入れられるのも牛乳のありがたいところです。

ちなみにチーズは牛乳から水分を除いて作られます。 100gのチーズをつくるのに10倍以上の牛乳が使用されるほど。 つまり完成したチーズは牛乳に含まれる固形の栄養分をたっぷり含んでいると言えます。

牛乳の成分②  炭水化物

牛乳の固形分でいちばん多い成分は炭水化物である乳糖です。
乳糖は英語でラクトースと呼ばれるオリゴ糖の一種。
牛乳を飲むと決まってお腹がゴロゴロするという皆さんは、その原因が乳糖にあることをご存知でしょうか?

通常、人がミルクを飲むと、腸内のラクターゼという酵素が乳糖を消化し、単糖のグルコース(ブドウ糖)とガラクトースに分解されます。
乳児は生まれつきラクターゼ酵素を持っていますが、離乳後にラクターゼ酵素の活性は徐々に低下していきます。これは自然と離乳を促すためだと言われており、人間だけでなく全ての動物に起こる体の変化です。
乳製品を摂った時に腹部膨満感、腹痛、腹鳴、下痢、吐き気などの症状が表れることを乳糖不耐症と呼び、日本では大人の実に4、5人に1人が乳糖不耐症といわれています。
欧米ではラクトースフリー、すなわち乳糖ゼロの乳製品が多く売られていますが、日本ではまだあまり見かけません。

ちなみに、チーズづくりの過程では、凝乳後に細切したカードからホエイ(乳清)を除去します。乳糖は主にこのホエイの中に含まれているので、チーズの中に乳糖はあまり残っていません。更に、残った乳糖は乳酸菌の栄養源となり、次第に分解されていきます(=チーズの熟成発酵)。
そのためチーズは乳糖不耐症の人も食べやすい乳製品だと言えるでしょう。

牛乳の成分③  タンパク質

牛乳はクリームやヨーグルト、バター以外にも、ホエイプロテインやカゼインプロテインといった乳由来のタンパク質として広く利用されています。

生乳はほぼ中性(pHでは6.8程度)。
ここから脂肪を抜き酸を加えて(pH4.6程度まで)、38℃程度に温度を保つと、乳は固まってきます。
このとき固まった部分 が「カゼイン」、固まらなかった部分が「ホエイ(乳清)」です。これらはどちらもタンパク質です。
カゼインは牛乳中の約80%を占める主要タンパク質で、残りの20%はホエイに含まれるタンパク質、いわゆるホエイプロテインとして知られています。

タンパク質はアミノ酸で構成されており、その中でも人体で生成が出来ないものは「必須アミノ酸」と呼ばれ、食物から摂取することが推奨されています。
牛乳は必須アミノ酸をバランス良く含んだ食品です。コップ2杯分で1日に必要な必須アミノ酸量を摂取できます。

筋肉、内臓、皮膚、毛髪、脳や血管といったあらゆる細胞・組織を、そして細菌やウイルスから体を守る免疫細胞をつくる材料となるタンパク質。生きる上で欠かせない栄養素です。

ちなみに、ガゼインというのは牛乳が白く見える要因ともなっています。
ガセインミセルという小さな粒子の重なりが 乳 1 ml当たり10の11乗個含まれており、この粒子が様々な方向に光を乱反射することで牛乳が白く見えているのです。

牛乳の成分④  脂肪

脂肪は牛乳中に約3.9%ほど含まれています。

脂肪と聞いてネガティブなイメージを持たれる方も多いですが、一概に不健康なものとは言えません。
脂肪の主成分である「脂肪酸」は、大きく4つに分類されます。

  • 飽和脂肪酸 :エネルギーになり、比較的摂取しやすいため過剰摂取には注意。
  • 一価不飽和脂肪酸 : オメガ9系脂肪酸とも呼ばれ、悪玉コレステロールを下げる。
  • 多価不飽和脂肪酸:動脈硬化や血栓の予防、血圧を下げる働きがある。
  • トランス脂肪酸 :植物油を高温にする過程で発生。加工油脂などに含まれる。

このうち、健康に悪い影響を及ぼす可能性があるものが「トランス脂肪酸」、そして過剰摂取した「飽和脂肪酸」。一方、「不飽和脂肪酸」は体内で合成出来ないため食事から摂る必要があります。
牛乳には飽和脂肪酸が約65%、不飽和脂肪酸が約35%の両方が含まれています。
摂り過ぎると高血中コレステロールが心配になる飽和脂肪酸ですが、乳脂肪を構成する主な脂肪酸は「揮発性脂肪酸(VFA)」。
その名の通り揮発しやすく、体内でエネルギーになりやすいため蓄積されにくい特徴を持ちます。
牛乳を毎日摂取したところで太ることはありません。

牛乳の成分⑤  ミネラル・ビタミン

牛乳には約0.7%のミネラルが含まれています。
カルシウム、カリウム、リン、ナトリウム、マグネシウムおよび亜鉛が主なミネラルで、その中でも特筆すべきなのはやはりカルシウムでしょう。

食品の栄養素は、食べた量がそのまま吸収されると思われている方も多いですが、実は吸収されるのはその内の一部で、残りは排出されます。
そこでポイントになるのが栄養の吸収率。これは食品によって異なります。

例えば、牛乳はコップ一杯200ml当たり約220㎎のカルシウムが含まれており、吸収率は約40%。
同じくカルシウム含有量の高いししゃもは3尾45gで149mg、吸収率は約33%。
小松菜は1/4束 70gで119mg、吸収率は約19%です。

牛乳のカルシウムの吸収率が高い理由に、リンのバランスが良いこと、ガゼイン(タンパク質)に上手く組み込まれていることや、乳糖の働きなどが挙げられます。
小魚や野菜に比べて取り入れやすいこともあり、牛乳はカルシウムを効率よく摂取出来る食品だと言えるでしょう。

また、牛乳に含まれるビタミンも忘れてはいけません。
特に、皮膚や眼の健康に必要なビタミンB2、血を造るのに重要なビタミンB12は、成長期の子どもに必要な1日の摂取量の20%以上を、コップ1杯(200ml)の牛乳で補うことが出来ます。
これ以外にも、ビタミンB1、ビタミンC、食物繊維、鉄なども含まれており、栄養の宝庫です。

まとめ

今回は牛乳に含まれる成分について、詳しくお話してきました。
牛乳には、たんぱく質・脂質・炭水化物の三大栄養素に加え、日本人に不足しがちなカルシウムなどのミネラルやビタミンB群も豊富に含まれています。
「準完全栄養食品」と言われているのも納得の内容ですね。
牛乳は日常に取り入れやすい天然食品でもありますので、是非積極的に活用していきたいものですね。

それでは今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。


【参考】 
・株式会社 食環境衛生研究所:食環研コラム:脂肪酸とは?(良い脂質、悪い脂質について)
・ 一般社団法人Jミルク : 「牛乳・乳製品の知識」
・農林水産省:みんなの食育:大切な栄養素カルシウム