地域性豊かなイタリアチーズ

地域性豊かなイタリアチーズ

当店で最も品揃え豊富なのがイタリアチーズ。
北はアルプス山脈、南と東西を地中海に囲まれ、多様な気候の中で様々なチーズが生まれました。その数500種類以上とも言われています。
そのためイタリアチーズの定番と言われるとなかなか一つには絞れません。
パルミジャーノ・レッジャーノ、ゴルゴンゾーラ、モッツァレッラ、アジアーゴなど。
イギリスはチェダー、オランダはゴーダ、スイスはエメンタールといったように、1国1チーズで語るには、イタリアのチーズ文化はあまりに多様です。
イタリアチーズとはいわばご当地チーズの集まり。地域に根付いた伝統レシピで、様々なチーズが作られてきました。
今回はイタリアという国の地域性にフォーカスを当てながら、イタリアチーズについて理解を深めていきたいと思います。

「都市の国家」と郷土愛

イタリアチーズの多様さはコムーネ(commune)に由来しています。
英語のcommunity(=共同体)の語源ともなったコムーネは、11世紀頃からイタリア北部・中部で誕生した自治都市のことであり、現在の行政区分ともなっています。
イタリア全土で8,000を超えるコムーネは、小さいものは人口数十人の村から人口250万人以上の大都市に渡り、中世より住民の自治によって発展してきました。
イタリア人は今でも自らのことを「ローマ人」「ヴェネツィア人」「ミラノ人」といった呼称で呼び合うというのですから、自分の生まれ育った地域への強い帰属意識が感じられます。 イタリアが「都市の国家」と呼ばれるのも不思議ではありません。
方言や衣食住にかかわる地域性もイタリアではとりわけ顕著です。
トマトをふんだんに使うナポリ料理、残り物や臓物を利用したトスカーナ料理、 塩味を効かせたシンプルなローマ料理、地中海やアフリカの影響を受けたシチリア料理と、イタリア料理と一言には言い表せない食文化の違いがあります。
チーズ作りの伝統もまた、その地域ごとに引き継がれてきました。
ブラ・テネーロやゴルゴンゾーラ、タレッジョなど、そのチーズの生まれた町や自然に由来した名前が付けられるのはそのためです。イタリア人の郷土愛が伝わってきますね。

郷土の味を守るDOP=原産地呼称保護

地域に根付いた伝統チーズが守られてきた背景に、EU独自の原産地保護制度があります。 平たく言えば政府のご当地認定です。
イタリアではDOP(Denominazione di Origine Protetta=原産地呼称保護)が最も厳しい基準で、農産物が加工される際、あらゆる工程が特定の地域で行われてきたものにのみ認証が与えられます。
原料の栽培地から加工所に至るまで厳しい規格をクリアしなければならないため、 伝統のチーズを模造品から守るために、この規制は大いに役立っています。
アジアーゴDOP、ゴルゴンゾーラDOP、ピアーヴェDOPなど、DOPの名を冠するチーズはどれも地域の特性を活かし、伝統に則って作られた本場のチーズたちです。
生産者本人にとっても、DOPの認証を得ることがブランド価値にもなるため、プライドをもってチーズを作り続けることが出来るのです。

イタリアチーズの選び方

さて、イタリアチーズがいかに地域性に富んだものであるかはお分かりいただけたことでしょう。
しかし、ここまで種類が多いと何を食べて良いのか迷ってしまうもの。
ここでは皆さんのお気に入りのチーズ発見の一助となるように、イタリアチーズの選び方についてお話しておきましょう。

まずはチーズのタイプから選ぶ方法です。
すりおろしてトッピングに使いやすい、パルミジャーノ・レッジャーノやグラナ・パダーノといったハードチーズ。
ブラ・テネーロやフォンティーナなど、薄くスライスしてサンドイッチなどに使えるセミハードチーズ。
ワインや蜂蜜と合わせるのは勿論のこと、塩味や香りを活かして料理のアクセントにもできる青カビチーズ。
トミーノに代表される白カビ、そしてタレッジョなどのウォッシュチーズは、クラッカーや果物に合わせてテーブルチーズとして楽しめるソフトチーズ。
鮮度が良い内に冷菜として味わっていただきたい、リコッタやモッツァレッラといったフレッシュチーズ。
このように、チーズタイプの違いは用途の違いでもあります。

そして乳の種類から選ぶ方法。
牛の乳から作られるものがチーズではありません。
例えばラテ・ディ・ブファラはミルキーで濃厚な味わいの水牛の乳を使用しており、世界最古のチーズとして知られている塩味の強いペコリーノ・ロマーノは羊乳を、マトンにも似た独特の香りが玄人向けのソラ・ディ・カプラは山羊の乳を使用して作られています。

それから熟成期間から選ぶ方法。
同じチーズでも熟成期間の違いで味わいが異なるのは以前のブログでもお伝えした通りですが、イタリアチーズは熟成期間に応じて名称が変化する場合があります。
例えばピアーヴェDOPの最も熟成期間の浅いものはピアーヴェ・フレスコですが、熟成期間6ヶ月までのチーズはピアーヴェ・メッツァーノ、熟成期間が6ヶ月以上を超えるとピアーヴェ・ヴェッキオと呼ばれます。
チーズの熟成度合いが名称で把握できるのは有難いですね。
ちなみにイタリア語でフレスコは「新鮮な」、ヴェッキオは「古い」という意味です。熟成期間を知る手立てにしてみてください。

チーズ初心者の方にとってはもちろん、普通のチーズには食べ飽きてしまったというグルメな方にとっても、探す楽しみがあるのがイタリアチーズ。
店頭では試食もご用意しておりますので、お好みのチーズを探してみてはいかがでしょうか。

  • 「コムーネからみるイタリア社会とことば」飯田 巳貴 https://www.kandagaigo.ac.jp/kuis/labo/gci_top/common/pdf/gci_vol2/gci_003-009.pdf
  • 「おいしくたのしいイタリアチーズ」発行:イタリア大使館貿易促進部https://www.ice-tokyo.or.jp/wp-content/themes/ice-pc/italiacheese2021/images/italia_cheese_leaf_2021.pdf