職人チーズってなに? その1

職人チーズってなに? その1

皆さんがスーパーで買い物をするとき、乳製品がどこに売っているか思い浮かべてみてください。
大抵、お店の一番奥に陳列されているのではないでしょうか。
どうしてこのような配置になっているのでしょう?
答えは、「牛乳はお客さんが最も頻繁に購入する商品」だから。

一番奥にあるとお客さんに店内をぐるっと回ってもらえるので、ついでにいろいろな商品を買ってもらおう、というお店側の作戦なんですね。

そんな日本のスーパーでも近頃ナチュラルチーズの品揃えが増えてきました。
とはいえ欧州の市場にはまだまだ遠く及びません。
しかも、皆さんが日本のスーパーで見かけるナチュラルチーズのほとんどは、工場で大量生産されたもの。

チーズは元々、熟練の職人の手でひとつひとつ作られてきました。
使用する牛乳、乳酸菌、熟成方法や期間など、その土地土地の製法で作られてきたものです。
こういった伝統製法を守って作られたナチュラルチーズのことを、私たちは職人チーズと呼んでいます。

前回のブログでは、ナチュラルチーズとプロセスチーズの違いをお伝えしました。
今回は皆さんに「工場チーズ」と「職人チーズ」の違いを知っていただきましょう。

大量生産・大量輸入されるチーズ

ナチュラルチーズについては前回のブログでお話しましたが、
実は日本のナチュラルチーズの95%以上は輸入されたものです。

輸入国別ランキングは、
1位オーストラリア、2位ニュージーランド、3位がアメリカ。
世界のチーズ生産量の約半分はヨーロッパと言われているにも関わらず、ヨーロッパの国々はここには入っていません。
一方、 オーストラリアで生産されるチーズは世界で3%ほど。

オーストラリアでは生乳生産量のうち約1/3がチーズの原料として利用されており、チーズ輸出はオーストラリアの酪農・乳業を支える屋台骨。
オーストラリアの酪農は日本人が支えていると言っても過言ではありません。

不思議ですよね。
どうして日本はオーストラリアのチーズを選ぶのでしょうか?

それはずばり「価格」。
オーストラリアの原料乳価格が世界一安いと言われています。
また、全生乳量の80%以上が生産される降雨量の比較的多い南東の沿岸部には、大手乳業メーカーが17社もあって、
輸出向け乳製品のほとんどがそこで作られています。

大量生産の強みは価格を抑えられること。
更に大型のプレス機やコンピュータ制御を導入することで、工場チーズは飛躍的に製造効率を上げてきました。
こうした恩恵を受けて、私たちはお手軽にチーズを楽しめているんですね。

多様性を残す職人チーズ

さて、今度はもう一方のナチュラルチーズ「職人チーズ」のお話をしましょう。

ゴーダチーズがゴーダ村から生まれ、エメンタールがエメンタール渓谷で生まれたように、
ヨーロッパでは昔から、その土地固有のチーズが作られてきました。

長年その土地で引き継がれてきた製法や熟成方法の違いはもちろんのこと、
気候や風土の違いはチーズに多様性をもたらします。
というのも、チーズは牛乳を10倍に濃縮して作られるため、牛乳のわずかな成分の違いがチーズの風味に大きな変化をもたらすのです。

牛の種類、さらには乳牛が食べる餌も、チーズの味に大きく影響します。
例えば、放牧地を変えただけでも牛乳の風味は変化しますし、
牛乳の脂肪とタンパク質の含有量も、暑い夏の間は最低レベルに、分娩後最初の25〜50日間は減少し、その後増加します。
チーズの製造者は、飼料、泌乳期間、季節によって牛乳の品質が変化することを熟知したうえで、
多くの場合、時期に応じて作るチーズを変更したり、製造手順を変更したりしています。

また、無殺菌の生乳からチーズを作るという工房もあります。
生乳には、低温殺菌によって死滅してしまう固有の微生物が存在し、
これらのバクテリアは、タンパク質、脂肪、乳糖を酵素分解し、独特なフレーバーを生むのです。

ヨーロッパで見かけるチーズ店を思い浮かべると、
密閉包装されたチーズを見かけることは殆どありませんよね。
これもまた、酸素を取り込み細菌を長く生かし熟成を促すため。
工房で熟成されるチーズもまた、多くの場合は木の板の棚で剥き出しのまま熟成されます。
木のアロマも追加され、更にチーズの味わいは深まります。

このように、「職人チーズ」は職人の熟練の技と知識をもってひとつひとつ手作りされたものですので、高価ではありますが飛びぬけた美味しさです。

まとめ

ナチュラルチーズの中にも、
工場で大量生産され、手軽に楽しめる「工場チーズ」と
伝統を守り、職人の手でひとつひとつ手作りされた「職人チーズ」があります。

本日はその違いを少しでも知っていただけたなら幸いです。
次回はもう少し詳しく、ナチュラルチーズの製造法の違いについてお話していきましょう。

また、このブログを読んで「職人チーズ」を食べてみたい!と思われた方もいらっしゃるかも知れません。
アルティジャーノチーズは日本で「職人チーズ」を取り扱っている数少ないお店の一つです。
ご興味を持たれた方は是非一度、お店に足を運んでみてくださいね。