チーズの原料、ミルクの話 その1

チーズの原料、ミルクの話 その1

ヨーロッパのチーズ専門店ではこんな会話が聞かれるそうです。

「このチーズの工房ではショートホーンを飼育している」
「このチェダーは65%エアシャーの乳から作られている」

これらは チーズの原料となるミルクを生産した、牛の品種の話。
日本では考えられない会話ですよね。

日本で乳牛の品種といえば「ホルスタイン種」、ときおり聞くのが「ジャージー種」といったところですが、ヨーロッパの酪農ではチーズ製造用に家畜を飼い分けているのというのですから驚きです。

今回は、そんなチーズの原料、ミルクのお話をしていきます。

羊、山羊、牛のミルクの違い

そもそも、ミルクがとれるのは牛だけではありません。
羊や山羊のミルクがチーズの製造に用いられてきたことは、前回学んだチーズの歴史から見ても明らかです。
まずは簡単に、これらの違いについて触れておきましょう。

羊や山羊のチーズを見たことがある方は、恐らく見た目の違いに気付かれたのではないかと思います。
というのも、羊や山羊のチーズはとっても色白。
牛のミルクから作られたチーズはほんのり黄味がかっているのが分かります。

というのも、牛乳の乳脂肪にはカロテンという黄色い色素が含まれています。
バターが黄色いのは、ミルクをバターにする過程でカロテンを覆っていた膜が取れ、本来の脂肪の色があらわれるため。
カロテンは飼料となる青草に含まれており、夏に青草をたくさん食べた牛のミルクはより色の濃いバターになります。
チーズがほんのり黄色いのも、カロテンという色素が影響しているという訳です。
対して、羊や山羊はカロテンを体内に吸収するため、ミルクの中には含まれていません。
そのため加工しても色は変わらず、色白のチーズが出来上がります。

山羊、羊のミルクについてもう少し補足しておきましょう。

山羊ミルクは消化吸収に優れていると言われています。
これはミルクに含まれる脂肪球が牛乳よりも小さく、素早く吸収されるためです。
更に、牛乳アレルギーの原因と言われるカゼインが含まれていないので、牛乳でお腹がゴロゴロする乳糖不耐症の人も安心して飲めるミルクでもあります。
とはいえ味がかなり独特なので、加工されることがほとんどです。

羊の乳は脂肪やタンパク質、ミネラルが多く含まれ、味わいは濃厚で栄養も満点。チーズ作りに適した乳と言えますが、一般的には搾乳量が少ないと言われています。
こちらも飲用より加工されることが多く、 フェタチーズやギリシャヨーグルトの原料としても使われています。

牛種によるミルクの違い

さて、チーズの歴史が深いヨーロッパでは、今でもチーズを作るために一定の品種の牛を育てていることがあります。
例えばフランス産やスイス産チーズのコンテはモンベリアルド種かシンメンタール種の牛の乳を、サレールチーズはサレール種の乳を、といった感じです。
牛といえば白黒のホルスタインか茶色いジャージー、そんなイメージしか持っていない我々日本人からすれば驚きのこだわりようです。
ここではヨーロッパで名の知られたチーズと、そのチーズの製造に使われる乳牛の品種を紹介していきましょう。

カマンベール・ド・ノルマンディ(Camembert de Normandie):
ノルマンディー地方の小さな村カマンベール村で発祥したチーズ。乳牛の50%以上を(見るだけでほのぼのさせてくれる)ノルマンディー種の牛が占める農場で生産された牛乳が使用されます。

コテヒルブルーチーズ(Cote Hill):
カメラ目線バッチリの、イギリスのレッドポール種で作られるのはマイルドなブルーチーズです。

スプリングブルック リーディング (Spring Brook Farm Reading):
ナッツの香りをまとった弾力の有るチーズで、お顔のかわいいジャージー種の乳が使用されます。

パルメザン・ヴァカ・ブルナ(Parmesan Vacca Bruna):
イタリア北部において、むしゃむしゃごはん中のスイスのブラウンスイス種で作られるのはパルミジャーノレッジャーノです。

多くの農場から原料が供給されている工場チーズの場合、牛乳は均質化され、チーズの味に大きな差は出ません。
一方、農家がチーズを作る際は、特定の品種から乳を集めることが出来るため、チーズの特長をはるかに大きく引き出せます。

工場チーズと対照的な職人チーズの中でも、牧場主が自ら作るチーズはファームテッドチーズ(Farmstead cheese/ 仏語でFromage fermier )と呼ばれています。

小規模のチーズ工房では、牛の品種はチーズの品質を決定する多くの要因の1つであり、固有のチーズを作るのに役立ちます。
そしてこのようなチーズ作りには「テロワール」という言葉をあてはめることができるのです。

テロワール(Terroir)とは、「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉で、もともとはワイン、コーヒー、茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指すフランス語です。 同じ地域の農地は土壌、気候、地形、農業技術が共通するため、作物にその土地特有の性格を与えます。

「テロワール」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』

おわりに

今回は、チーズの原料となるミルクのお話をしました。
羊や山羊、牛といった動物の種類によって、また同じ牛乳であっても品種によって味わいが異なるミルクについて、興味深く感じていただけたのではないでしょうか。

実はミルクの話はここで終わりではありません。
次回は更に奥深く、ミルクの成分についてお話していきたいと思います。

それでは皆さん、ここまで読んでくださりありがとうございました。